今回歩いた越美分水嶺10キロ程で、登山道があるのは屏風山登りの数百mだけ。
美濃側からみればまさに奥美濃最深部。
人間の気配が極端に薄い山域ということを、つくづく実感する山行となった。
その人間からなんで逃げないのかと思ったら、四足で立ち上がるのがやっとの状態。
生まれたてということか。
雪に弱いと言われてる筈の二ホンジカだが、ここに幼生の鹿の子がいるのは多雪だった今冬を母鹿がこの地で越せたからだろう。
【天候】
初日/ 晴れのち曇り時々雨 二日目/ 濃霧のち晴れ
【コース】
伊勢川橋(8:15)-(10:10)入渓-(13:09)P1106-(15:10)前回到達点-(17:05)屏風山-(17:32)南峰-(18:30)泊地
泊地(5:55)-(9:22)P1095-(13:14)藤倉谷の頭-(15:33)1100.6-(18:05)チャリ-(18:42)林道口-(19:41)伊勢川橋
青が初日、赤は二日目
緑は今年4/18、屏風山手前で敗退した尾根アプローチルート
黄は昨年6/28、屏風山手前で敗退した谷アプローチルート
林道の正式開通が六月になるのでマトモに行ったら残雪期には間に合わない。
やぶこぎ度合を考えると緑が深くなればなるほど厳しくなっていく。
ホント、悩ましい山域た゛。
細川舜司さんの【日本の「分水嶺」をゆく 本州縦断2797キロ】という本が新樹社から出されている。
本州の中央分水嶺全部を39年かけて歩かれたという大偉業の記録なのだが、やはりこの方も屏風山には苦労されたようで、合計三回のチャレンジが必要だったということだ。
九頭竜湖の伊勢川橋たもとで起きていた土砂崩れは処理されていたが、代わりに対岸の仮通行だった崩落林道の本格復旧工事が始まっていた。おかげでチャリデポに滞りは生じなかったが、予定外の林道歩き7.5キロが最初から追加されてしまう。ぶつぶつ言いながらも 8:15 出発。
先月も見たカモシカ君らしき白骨が転がるすぐ横に群がる蝶。
しかし雪面歩きの先月は三時間かけた道も二時間弱で入渓地点。
実はこの沢、昨年の6/15に登っていて大した滝も出てはこないことがわかっていた。
だからというワケでもないが、今回軽量化優先で沢靴ではなく沢スリッパ?
しかし本来素足で履くモノをシューズとの重ね履きとしたのでフィット感まるでなし。
天罰なのか、まだ水を被るのはやめておこうと心に決めていたのに、2mほどの滝で足位置が決まらずにもたもたしていたらフルシャワー状態。(^^ゞ
最後の給水ポイントでスリッパを仕舞って早めの昼食とする。
家で湯がいてきたソーメンを沢水に漂わせる。
眠気が来そうだったが下から吹き上がってくる風に寒気を覚え、しぶしぶ立ち上がる。
しばらく進んで二股でGPSを見るが、違和感を覚える。そして次に画面を見た時には明らかに表示の方がおかしいことが分かる。越えてもいない稜線の向こう側になってるし・・・。
とりあえずはP1106を目指して登るが、ニセ情報に惑わされてピーク一つ分も外してしまった。
そしてP1106の主とのご対面は通算四回目となる 13:09。 「お~好きモン、ま~た来たんかい」なんて言われてそうだな。GPSの異常表示はとりあえず治まったようだ。
ピークを降りていくと屏風山が見えた。
カメラを出そうとすると定位置に無い! 紛失防止ストラップを通すのを最近サボりがちになってきた罰かも。
ピークまでの200mほどを二往復して、やっと枝にぶら下がるカメラを発見できた。
今日に限って、いままで置いてきたことのないケータイを軽量化したのは早計だったかも知れない。
ヒノキの「根上り」の姿には、なぜか「寄生獣」を思い出す。
屏風山がだいぶ近づいてきた。
冒頭の生まれたてバンビちゃんを見たのがこの辺りだ。
最低鞍部を過ぎると、ありがたいことに河内谷からの登山道と合流となる。
しかし予報より早めの雨が降りだしてきてテンションも下がる。
登山道はこの急斜面をひたすらの直登だ。雨がいやらしいが登りならまだ大丈夫。
おそらく中央ピークが平家岳。
17:05 遂に屏風山へ到達♪ 能郷白山方向。
三度目のチャレンジでの登頂は感慨深いものがあるが、この山行での核心と呼ぶべきは今日の屏風山ではなく、明日の越美分水嶺のただただひたすらのやぶ漕ぎを越えるコトだろうか。
雨の中でも薄っすらとだが白山が確認できた。
いま立っている屏風山を、ぐるりと回り込む稜線。
すぐ隣の南峰とそこから下って続く稜線は、中央分水嶺すなわち越美国境だ。
南峰からの下降は凄まじく、一時間下ってもまだ途中。
中間ピークでヒノキの高木の下に、濡れていないふかふか寝床を見つけて泊まり地とした。18:30
朝になるとやはり予報より早く雨はほとんど上がっていたが、期待した眺望どころか深い霧に包まれていてがっかりだ。5:55 出発。
視界不良はGPSがあっても下降方向を見誤りやすい。
なんとなく出てくる獣道にも惑わされ、何度も尾根芯をはずしてトラバースする羽目になる。
しかし、だんだんと視界も良くなってきたなと思ってたら、青空も顔を出してきた。
このころからGPS異常第二弾を感じ始める。
画面自動オフが勝手に解除されている、スイッチを入れると見たことも無い画面が表示される、現在位置表示が勝手に車になってる、いままでの軌跡が出てこなくなる・・・etc。
自慢じゃないがワタシは全くの機械音痴。永遠のパソコン初心者を自認しているほどだ。
とてもじゃないが「GPSの中に住む小人さんの悪戯」に全部は対処しきれない。
まあ、GPSが全くの役立たずになったら、情けないがそれ以上の読図が役立たずのワタシでは、これだけのアップダウン+ジグザグ分水嶺では正しい道には進めそうもない。つくづくケータイを置いてきたのが悔やまれる。
さっさと谷へ下りて川を下降して帰るしかないだろう。途中敗退でその上帰りも悲惨な時間となるだろうが・・・。
幸い小人さんも悪戯に飽きたようで、そのような事態とはならずに済んだ。
なおも進むとヒノキ主体ばかりで、しばらくご無沙汰だったブナ林。
ヒノキとブナの棲み分けがどうやって行われるのかは知らないが、あまり混在しないようだ。
イメージでは比較的ヤブの「軽い」ブナ林と、ヤブの「重い」ヒノキの林床となる。
なのでブナを前方に発見するととても嬉しくなる。
今の時期だと深い緑になってないブナは、黒に近いヒノキの緑とわりと遠くからでも区別がつく。
あまりにも人の気配が薄いと、人の仕業にはなんにでも注意が向いてしまう。
なんのかんので越美国境最後のピークまで来れた。
登りの途中で能郷白山と手前の未踏となる越美国境稜線も見える。
帰りのP1100.6への激急登でとても古い赤布を発見。
こんな奥地でいったい誰が?
15:33 P1100.6へ。
山の神様の粋な計らいで、歩いてきたジグザグ分水嶺が一望できた。
このピークからチャリが待つ林道への下山は、当初沢を下るつもりだったが、あんな「沢靴」では難しいかもしれないので素直に尾根道を下ることにした。
すると丸一日は持つはずの、今朝代えたばかりのGPSの電池切れ表示。画面の自動オフ機能が解除されていたからだろう。予備電池を入れるがなんと充電忘れの電池だった。
よし、いい機会だ。読図で下山としよう。
丁度支尾根に迷い込んだ時に下山路が見通せたので、地図とよく見比べておく。
その時にはとても簡単に思えたが、結果は散々なものだった。
GPSにもう何年も頼りきりになっているワタシの感覚には、赤さびが浮いているようなものだ。
二回ほどGPSでカンニングしながらやっと下山。18:05
甘い紅茶のペットボトルとバナナは、森の住人に荒らされることも無く無事だった。
歩けば二時間近くの林道も、座ったままで少し漕ぐだけで30分チョイ。
林道口からは、四月の雪面歩きで四時間半が峠の押し歩きを入れても丁度一時間。
まさにチャリ様サマだ。
クルマのある九頭竜湖畔にかかる伊勢川橋へは 19:41。
やり遂げた満足感を感じつつ帰途についた。